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ジョニとミシュの旅

夜から朝になる間に一人だけになる時間帯がある。
窓や扉の素材が変わり空気が重くなって、ジョニの呼吸だけ大きくなる。
あーと言うと全然反響しないから宇宙みたいだと思う。
ベッドで目を覚ましたジョニは暗闇で時計を探した。
部屋を片付けたせいで見つけるのに時間がかかる。
やっと床の上にある時計を見つけると、午前4時を過ぎていた。
喉が渇いたがそのまま再び横になった。感度を最大にして目をつむると川の音が遠くに聞こえて、映像の授業をジョニは思い出していた。
ちょうどこんな真っ暗な教室で、現代美術の作品をいくつか観た。
一番印象的なのはコマ送りで花の色がどんどん変わっていくやつ。
人生みたいだ、と出会ったばかりの斎藤が言ったのが詩的でよかったと思う。
ジョニが金子に初めて会ったのもその授業だった。
教授が夜間部も受け持っていて、節目には夜間部の学生と一緒の講義があった。
金子はその時すでに社会人で、夜間部に通いながら広告会社で営業の仕事をしていた。
ほどなくして金子とミシュが付き合い、あのバーに金子もよく顔を出すようになる。
講義では人数が少なかったのでたまに課題を出された。
5枚の写真を合成するテーマのとき、金子のが教授に選ばれてジョニは今でもその美しい映像をはっきりと覚えている。

「影響力を考えてものを作るのは素人のやることだ」
金子のもの言いはざっくりしていて目の粗いやすりのようだった。
表裏がなくて好き嫌いがはっきりしていたところは好感が持てたが、たまにジョニもやすられることがあった。
たぶん金子は水彩画とか嫌いなタイプだ、とジョニは思った。
ジョニはというと水墨画が好きで斎藤におまえは雪舟か、と言われたのだが。
「感覚は当事者の問題でさ、大まかな地域が合っていれば指定した町の隣町でもいいんだよ」
落ち着いた口調で淡々と、よく金子はミシュに言い聞かせていた。
「だから俺の作品に情はいらない。結果的に見る人間に俺の考えてることは完全に理解されないし、俺もそれを望まない」
金子は焼酎を飲んでいた。芋の水割り、ミシュはウイスキーが好きでその日もいつものと同じのを飲んでいた。潤った口元でミシュがさえぎる。
「でも明確に伝えたいことがあって、作るものには気持ちを込めるものじゃない」
金子は壁の間接照明を指先でいじっていた。影が手の甲をさするように動いている。
「はなっから期待なんてしないもんなんだよ。道具のひとつでしかないんだ。むしろ無駄な概念のエスコートは観る人間に盲目を生む。俺の手から離れて勝手に解釈される、孤独なものでいいんじゃない」
あーまたケンカだ。と斎藤はマスターに顔を向けてビールのおかわりを注文した。
知らん顔しあってるわけではないが、互いの会話を聴きながらジョニと斎藤は別の話をしていた。4人とかでいると、よくあるやつ。
ミシュは呆れたように、いつものようにウイスキーに口を付けてこの話は終わり、という顔で
「金子君の写真はすごくきれいなのに。あれは私だけの感覚ってあまりにも悲しい」とつぶやいた。
僕もだ。ジョニは顔をあげて二人を見た。
ケンカではない理解者どうしの空気がミシュと金子にはあって、二人は何食わぬ顔をしてジョニを見た。

スタンスはともかく、金子の写真がジョニは好きだった。
金子の写真はどこにいても映えた。夜間部の展示に行くと名札を見る前に作品がどれかわかったほどだ。
鳥の声が聞こえたので時計をもう一度見ると、だいぶ時間がたっていた。
どうしても喉が渇いたので結局ジョニは起き上がって何か飲むことにした。
目は暗さに慣れていて難なく歩ける。牛乳を飲みながら昨日ちえこが落とした箱が、窓際で外の光に浮いているのが見えた。
ミシュの写真はやさしい。カーテンを開けると月が明るく、よく写真が見えた。
いつ見ても言葉に詰まる複雑な気持ちだ。
突然いなくなったミシュから去年届いた手紙には、写真が何枚か入っていた。
何気ない風景だったが、写真や、添えられた手紙にミシュの気配が感じられた。
安易に白黒にしないし、夕日とか空とか、そういうわかりやすい写真をミシュは恥ずかしがった。
下手がばれる、とミシュは言うがそれが謙遜なのをジョニは知っている。
金子のように前に出る写真ではないが、ミシュの写真はどこか愛嬌があってちゃんとミシュが中にいた。見ていると隣にミシュが来て、ジョニと同じ気持ちでそこにいるようだった。
だからミシュに写真を撮ってもらうのは抱きすくめられるようで、どこか誇らしげな気持ちになった。
「てい」
最後に会ったとき、何も言わずにミシュはジョニを写真に撮った。
思い返せばあの日も夜明け前で、ミシュの呼吸とジョニの呼吸だけが足音のようにはっきりと静かに天井に浮かんでいた。
カーテンを閉めると一気に暗くなって、飲みかけの牛乳もミシュの写真もわからなくなった。
またジョニの吐息だけになって、今は一人だった。
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